プログラム長より

数理科学へようこそ

数学への意欲みなぎる皆さんに、あわせて保護者の皆様にも、ご挨拶を申しあげます。

今から6年前に理工融合を掲げて発足した理工学部でしたが、社会の急激な変化に対応すべく多少の手直しを行いました。皆さんは新生理工学部、数理科学プログラムの記念すべき第一期生となります。そうは言いながら、数理科学プログラムは元の数理科学コースの理念をそのまま受け継いでおります。もし先輩たちの姿を見て数理科学を意識し始めたとしたら、全く心配はいらないことをはじめにお伝えしておきます。数理科学プログラムの目標は、数学の教育研究を通して数学という学問体系の発展に寄与するとともに、他の科学との協調、新しい技術の開発、社会の基盤となるしくみづくりなどのさまざまな場面に応用していくことです。

皆さんは数学に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。学校の教科という意味では、細かいところ(例えば符号がどうなるか)までルールに縛られて、ブラックな校則みたいだと思ったかもしれません。あるいはたとえ試験であっても真っ白な用紙を好きなように使えるという奔放さに魅力を感じたかもしれません。たぶんどれも一面を言い当てていると思います。数学は「筋道立ててきちんと考える」という一点さえ守れば、あとは思うがままに進めてよいのです。条件付きの自由ですね。変化に富み、さまざまな違いを許す学問であることがおいおいわかってきます。波長さえ合えばとても楽しいですよ。

少し専門的に表現すると、数学という学問は「・・・という仮定(条件)の下で・・・という結論が成り立つ(成り立たない)」という形の命題が集まってできています。例えば、「二等辺三角形の両底角の大きさは等しい」というのもそのような命題の一つです。前提が異なればそこから得られる結果が違っていてもよいですね。一つの命題から条件を少しずつ変えていけば無数の命題が生まれます。そんな中から何かの役に立つものがあったり、いつの日か生まれたりするのです。あなたの名前を冠した定理ができるとよいですね。数学の世界では一度正しいとわかった命題は永久に正しいですから、「***の定理」は未来永劫この世の中に生き続けることになります。

ただ皆さんがこれから実際に触れていく数学――本来の数学の基盤となる部分――だけを見ると、様子はかなり違って見えるかもしれません。ちょっと堅苦しい・つまらないと感じるところもあるでしょう。それは最初のうちの我慢すべきところです。どんな仕事でも約束事というのはありますよね。それを無視して一斉に気ままに進めるのは、異なる言語でけんかをしあうようなものです。誰もが認める成果につながるとは到底思えないでしょう。そこの部分を無難に、あるいは努力を積み重ねて乗り越えられるかどうか、それが後の首尾を決める重要な分岐点になります。何となくわかった気になって満足するのではなく、他の人に説明したくてたまらなくなるくらいに、きちんと理解するように心がけてください。


さてここからは大学生として気をつけておいた方がよいことを少しだけ述べます。新入生ガイダンスでも言及しますが、ここでは三点あげておきます。保護者の方と一緒に読んでください。

学業・成績

言うまでもないことですが、大学は教育機関であり学生の本分は学業です。一昔前には、アルバイトだけで4年間を過ごしたとか、むしろそのような人の方が就職に有利だったとか、無責任な(事実なのでなお始末が悪い)情報が飛び交ったこともありました。しかし、現在ではそのようなことはあり得ません。学業と正面から向かい合うことにより、どれだけ高度な能力を培ったかが厳しく問われるのです。汗をかくべきは脳であるということを忘れないでください。

大学における学業を仮に一言で表現するならば、「知の蓄積と活用」です。社会にとって必要なものや有益なものを生み出すとともに、それらを活用して次の時代を動かしていく「すべ」を示すよう求められているのです。どう考えても単なる丸暗記や一夜漬けで済む代物ではありません。その種の単純作業では人間は機械にかなうはずがないのです。高度の情報化、デジタル化社会を生き抜くには、人間でなければできないこと、人間だからこそできることを追求するべきでしょう。

大分大学理工学部のカリキュラムでは、高校卒業程度からはじめて、社会の中枢で活躍するための実践的な能力を養える、人材育成プログラムを用意しています。その道のりを堂々と踏みしめながら、人生の糧を得るつもりで前進してください。学生諸君の日々の精進を期待しております。

心身の健康

ここでは、心の健康について述べます。順調な大学生活を謳歌するために、まずは身近な顔見知りを大切にしましょう。そこから始めて学生時代を通して、本当に気の許せるともだち、一生の付き合いのできる仲間に出会ってください。時に支え合い、時に衝突し合いを繰り返しながら、糸がより合うように深い関係を紡いでいけるのが理想的ですが、なかなかそのようには進みにくいかもしれません。あまり深刻に考えすぎず、とりあえず何でもいいから一つのグループのメンバーになるのでもかまいません。クラブ活動やアルバイト仲間だとハードルが低めでしょうか。立場上大っぴらにはお勧めしませんが、レポートの写し合いをするための便利屋仲間もよいでしょう。今の学生は昔と違って、「学業」にしても「就職」にしても、自ら行動して見せることが求められます。自分の得意分野はまだしも、すべてをうまくやろうとすると、余分なストレスが蓄積されます。それをうまく発散するためにも、仲間との時間を過ごすこと自体がとても有意義なのです。

さてそうは言っても、どうしてもうまくいかないと感じることがあるかもしれません。相談できる人がいればよいのですが、それもなんだか気が引ける、何事もおっくうだと感じるようになったら要注意です。そんなときには学年担任の先生と話してみるか、学内にある相談窓口を訪ねてみましょう。専門家が常駐していますので、単なる気休めではなく、本当の解決策を一緒に考えてもらえます。

進路・就職活動

社会全体のありようが急激に変化しています。学生の就職に関しては、世間では「売り手市場」(つまり学生側にとって有利)という認識が定着していますが、盲目的に信じると痛い目に合います。今の社会では、自ら考えて行動できる人が求められ、いわゆる指示待ち族は敬遠されます。このような将来の見通しが立てにくい社会では、自ら道を切り開いていこうという強い意志と、失敗にくじけない楽観的なものの考え方がぜひとも必要です。少々のことでは動じない図太い神経(鈍感力)が求められるのです。

自らの生き方(将来計画)を考える作業は、できるだけはやくからはじめることをお勧めします。勘違いしないでいただきたいのは、大学1年生から会社訪問しろというのではありません。学生の皆さんには、夢をもって将来を明るく見つめること、夢が破れて絶望を経験すること、再び新たな夢をみつけ、また失敗すること、この繰り返しをできるだけ何度も経験しておいてもらいたいのです。就職活動をはじめると、「自己分析」と称する作業を強いられます。自分自身を客観的に見つめ直すというものです。学生時代の豊富な経験に裏打ちされた言動こそが、あなたへの確かな期待を構築していくのだと思います。ついでですから、近頃流行りの「ミスマッチ」という言葉について述べておきます。企業と学生の互いの希望の間にずれがあって、求人があるのに就職できない状況がしばしば生じます。また、せっかく就職したのに思っていた仕事とは違うといって早々と離職する例も多々あります。保護者の皆様であればどなたもよくご存じのとおり、「これはやりがいのある立派な仕事です」といって向こうから看板を掲げて出てくるような仕事は絶対にありません。実際にやってみなければわからないし、人によって向き不向きがあるのが普通なのです。また何の経験もない新入社員に、いきなり本当に大事な仕事をまかせるような企業などあり得ないのです。こんなところにも、早くからよく調べよく考えることの重要性が現れていると思います。


将来への見通しが明るいのか暗いのか、いまひとつはっきりしない社会状況が続いています。平成の時代は、バブルの崩壊とともに始まり、失われた10年が20年を超え、30年に達したところで終わってしまいました。新しい令和の時代を迎えても、日本は未だにそこから抜け出す明確な道筋を見つけられずにいます。ただ「人工知能」に代表される新しい科学技術の成果がようやく日々の生活にとけこみ、社会の変革を引き起こすかもしれないという手ごたえらしきものも感じられます。さらに皆さんの専攻する数理科学は、新しい技術と親和性が高く将来性に大いに期待が持てます。年配者のはしくれとして、皆さんには何とかこれからの日本を支えていく人材に育ってほしい、今その覚悟を固めてほしいと切に願っています。教職員一同は、20年後の皆さんの雄姿を想像しながら微力ながらお手伝いをしていきます。遠慮せずに何でも相談してください。

令和5年4月1日

理工学部理工学科
数理科学プログラム
令和5年度プログラム長
田中 康彦