コース長より

数理科学コースへようこそ

ふと振り返ると、昨年の今頃はようやくなった数理科学コースの設置を目のあたりにして感慨にふけっていたなと、いまさらながら鮮明に思い出します。高揚感というのは、本当に身の浮き上がるような感じがするものだと人生で初めて経験しました。この一年は文字通り矢のごとく過ぎ去りました。ようやく平静を取り戻したといいたいところですが、完成までにはまだまだ課題が山積しております。学生と教職員が一団となって成長を続けることこそが、これまで大いに期待し支援してくださった方々への恩返しであろうと、改めて身を引き締めております。

数理科学コースの理念は、数学の教育研究を通して、数学という学問の発展に貢献するとともに、他の科学との協調、新しい技術の開発、社会の基盤となるしくみづくりなどのさまざまな場面に応用していくことであります。幸いにして第一期生として前途有望な学生諸君を迎え、初年度は上々のスタートを切ることができました。

さて数理科学コースも二年目に入りました。再び新入生を迎え、規模が二倍になりました。発展しつつあるコースを担っていくべき学生諸君に対して、一言ご挨拶を申しあげます。

昨今の経済社会状況をみるとき、これからの日本はこのままでうまくやっていけるのかという焦燥感を強く抱きます。大学を取り巻く状況を思うとき、大分大学はこれからもずっと存続していけるのかという不安を強く覚えます。

将来への展望が極めて不透明な時代を生きなければならない皆さんにとって、大分大学に入学したという一事がこれからの人生にどれほどのご利益をもたらすかは全くの未知数という以外にありません。とてもこれで一件落着とは言い切れないのです。皆さんは本当に大丈夫だと思いますか。年長の者が自分の寿命が見えるころになると「近ごろの若い者は・・・」と愚痴をこぼすというのは昔からよく聞く話です。しかし最近の状況は、国の将来が本当に危ういのではないかという「漠然としてはいるもののかなり確信に近い」不安をもたらしているという点で、今までのものとは異質のように感じます。

皆さん自身に直接の責任がないことは確かですが、皆さん自身が当事者であり、これによって不利益をこうむるかもしれないのもまた間違いのない事実であると思います。皆さんがこの厳しい社会を生き抜き、次代を支えるよき社会人と活躍していくためには、やはり相応の努力をしてもらわねばなりません。現代の社会は平均的な点数よりも、本当に偉い人、国を引っ張っていける人が減っているのが大問題なのです。そして皆さんは、その欠落した部分を補っていくだけの十分な可能性を秘めていると思うのです。

大分大学は教育機関として、研究機関として、これまでも精一杯の努力をしてきたと確信しています。ここで、もうひとつのスローガンとして「人材育成機関」を標榜し、社会の発展に貢献できる人間を養成していく決意を固めました。小規模ながらも世間に一目も二目も置かせる大学として、社会の随所で活躍する人材を輩出していく覚悟です。

それを実現するためには、皆さんの頑張りが最も肝心なのです。ひょっとすると皆さんの中には自分の能力に不安を感じている人がいるかもしれません。しかしそれは心配ないのです。仮に能力が不足したとしても、それは致命的な問題ではありません。足りないものは努力によって補うことができます。やり方が分からなければこれから学べばよいのです。そのようにして成長していった先輩の例も多々あります。問題なのは、自分には無理だといってはじめからあきらめてしまうという姿勢にあります。大分大学の学生は自分自身を表に出さないという傾向がやや強いようです。少なくともこれまでの学生はそうでした。一昔前ならば奥ゆかしい態度としてほめ称えられたかもしれませんが、現代はそれでは通用しません。単純に伝統(過去の成功体験)を受け継ぐだけでは、世界の中で生きていくことができなくなってきたのです。自分自身に自信をもてること、その自信は能力に裏付けられたものであることが大切です。それには自ら研鑽を積む以外に方法は見当たりません。しばしば「学問に王道なし」といわれますが、これは学問に限ったことではありません。これから長い人生を生きていくためには、常に心しておくべきことなのです。はじめからコツコツと積み上げていくのが、結局は能力を身につけるために最も役に立つのです。

人は、能力のある人を尊敬します。でもそれは、やや正確さに欠ける表現です。能力のあるその人の現在の姿を見ながら、実はその人が現在の能力を得るまでにかけた時間、費やした労力、想像を超えるであろう辛苦と努力を想像して尊敬するのです。誰も気づきもしなかったそのプロセスを、本当のところはよくわからないままに、それでも賞賛するのです。人間というのは、知らず知らずの間にその本質を理解しているという点で大変偉大だと思います。

皆さんの人生はこれからです。20年後、30年後の雄姿を夢見て、自らの基盤作りに勤しんでください。私たち年長者もできる限りの応援をします。後の世の人々が戦後二度目の奇跡と呼ぶような時代を、実際にこの目で見ておきたいと思いますから。皆さんの健闘と幸運を祈って、この国の再びの発展を祈って、ご挨拶といたします。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

共創理工学科 数理科学コース
平成30年度 コース長
田中 康彦