コース長より

数理科学コースへようこそ

大分大学に待ちに待った数理科学コースが設置されました。大分県内でもようやく本格的に数学や応用数学を専攻できるようになります。数学の教育研究の核として、ゆくゆくは世界に向けて発信していこうと決意を新たにしています。これまで大いに期待し、応援してくださった皆様に深く御礼を申し上げます。皆様とともに成長していきますので、引き続きご支援をいただけますようお待ちしています。

数理科学コースの理念は、数学そのものを深く追究するとともに、数学から得られた成果を社会に還元するという二本立てで構成されています。数学の教育研究を通して、数学という学問の発展に貢献するとともに、他の科学との協調、新しい技術の開発、社会の基盤となるしくみづくりなどのさまざまな場面に応用していくという強い意思を表明いたします。

さてここからは、記念すべき第一期生となった学生諸君に一言ご挨拶を申しあげます。数学に関してはこれから数え切れないほど述べる機会があるので、ここではもっと一般的な、学生生活の心構えのようなお話をしておきたいと思います。

すでによくわかっていることですが、大学を取り巻く社会情勢は厳しいといってよいでしょう。これだけ人手不足が叫ばれながら、思い通りの道に進めるのはほんの一握りの幸運な人たちだけに過ぎません。大学を卒業したならば希望の仕事をしながら安定した人生を送れるといった甘い幻想は完全に過去のものとなりました。人生のあらゆる場面で「グローバル化」がキーワードとなり、われわれは否応なしに世界規模の競争に巻き込まれていくのです。このような状況を誰も止めることはできません。このような社会を生きていくことになる皆さんへ、人生の先輩として3つのことをお話しておきたいと思います。

第一は、自らがよって立つ基盤となる能力を磨いてほしいということです。

皆さんは科学技術の発展に貢献しなければならない学部・学科・コースに入学したのです。ひょっとすると皆さんの中にはそうは考えていない人もいるかもしれません。しかし、それが社会の学生に対する期待(要求)なのです。人類が現時点で手にしている「知のデータベース」は非常に程度の高いものであるといって間違いはありません。皆さんには例えほんの少しでもよいからそこに新しい発見を付け加えてほしいのです。元々の水準が高いのですから、それに追いつくまでには相当の努力が必要です。先天的な能力だけでなく、がむしゃらな意欲も求められます。

いまさら言うまでもないことですが、科学技術は概ね過去からの積み重ねによって発展してきました。過去の英知の結集なくして、未来の輝かしい栄光はありえません。大学の教育課程はそれを見越して編成されていますから、まずは普段の学業に精一杯の努力を注いでください。細かいことよりも、学問の基本的な考え方にできるだけ早く慣れることが重要です。そして、自分の考えたことを他の人によくわかってもらえるように、筋道を立てて伝えるための訓練が必要と思います。

第二は、まわりの状況に合わせて自らが大胆に変化することも時には必要だということです。

社会の変化が非常に激しい時代です。新しい技術が開発されても、あっという間に陳腐化され、より新しいものにとって代わられます。自らの強い信念をもちそれに従って行動するというのは大変重要なことではありますが、それにしがみつくだけでは世の中の大きな流れ(うねり)から取り残されてしまう危険があります。周囲の状況をつぶさに観察して、ここぞというときには思い切ってやり方を変える、進む方向を変えるといった決断力が大切だと思います。君子豹変するとはそういうことです。そうすべきかどうかの正確な判断をするための能力を身につけておくことが非常に重要なのです。

世の中の研究者と呼ばれる人々には二種類あります。若いころからずっとひとつの研究対象を深く追い続けるライフワーク型と、次々に研究課題を据えて広く興味を持ち続けるテーマパーク型です。実験系の先生方では後者の方が多いかもしれません。もちろん善悪の問題ではありません。自分の信じたやり方にしたがっているのです。自らの興味や関心に素直に従うのが学問において成功する秘訣だと思います。学問は他人に強制されてはじめるものでも、何となくそのときの気分ではじめるものでもありません。自らの強い意志をもつことと、それを積極的に表に出すことを学んでください。

第三は人的ネットワークを大切にするということです。

皆さんは情報化時代に生まれた世代ですから、情報ネットワークの重要性についてはよく知っていると思います。あるいは、これからしっかり勉強したいと思っている人も多いことでしょう。しかし、ここで言っているのは、人類の誕生以来社会の構成や発展に寄与してきた、伝統的な人間どうしのつながりのことです。

あなたは初対面の人(例えば今たまたま隣に座っている人)とどれくらい打ち解けて話をすることができますか。あるいは、今親しくお付き合いできる人とはいつからそうなったのですか。

どのように時代が変化して、社会全体が機械に制御されているのではないかと錯覚するようになったとしても、人生において人間どうしのかかわり合いの重要性が廃ることはあり得ないと思います。むしろそのような一見無味乾燥な世の中であるからこそ、以前にもまして人と人とのつながりを大事にしなければならないのです。学生時代は、一生のお付き合いができる友人をつくるチャンスです。そのような人付き合いの基礎を固めることは、一生の財産になります。どうか、この大学で過ごした数年間に、自分の人生にとってかけがえのないと自信をもって言える宝物を見つけてください。きょうからがスタートです。

どれも言い尽くされたことで、特に目新しいことはありません。社会の表面的な状態は絶えず変化していますが、それを構成している人間の考え方が一朝一夕に代わるわけではないのです。自分の信じた道を歩き続けるために、日々研鑽の努力を惜しまない人が結局は満足のいく人生を送れるようです。

皆さんの人生はこれからです。20年後、30年後の雄姿を夢見て、自らの基盤作りに勤しんでください。私たち教職員も精一杯応援をします。そしていつの日か、社会の中枢で活躍する皆さんの名前を発見して、この忙しく複雑な時代の記憶をセピア色に変えて思い出したいと思います。皆さんの健闘と幸運を祈って、ご挨拶といたします。ありがとうございました。

平成29年度 共創理工学科 学科長
数理科学コース コース長
田中 康彦